民事再生の費用・相場はどのくらい?支払えない場合の対処法も解説
企業が負債を抱え、経営を続けるのが難しくなった時の選択肢として、倒産と再建があります。このうち、再建を検討している企業が選ぶことのできる方法の一つが、民事再生です。しかし、この手続きには手続きのための費用がかかります。費用の内訳は、裁判所に納める予納金と、弁護士に支払う着手金・報酬金です。これらの費用は負債総額によって変わるのですが、決して安いものではありません。特に、経営に行き詰っている場合は大きな負担となるかもしれません。
民事再生を検討している人の中には、その費用がネックとなることもあります。「費用が払えない場合はどうしたらいいのか?」という不安を抱く人もいるでしょう。しかし、今すぐお金が払えない場合でも、民事再生の手続きはできるのです。
ここでは、民事再生を行う際にかかる費用の相場や、その費用が支払えない場合の対処法について解説します。民事再生に不安を抱いている人は、ぜひ読んでみてください。
民亊再生のメリット・デメリット
民事再生の手続きをするなら、まずはそのメリットとデメリットについて把握しておきましょう。
それぞれ、詳しく解説していきます。
民事再生のメリット
民事再生を行うメリットには、以下のような点があります。
・事業を継続しながら、債務を減らすことができる
・経営陣を変更しなくてもいい
・債権者全員の同意が必要無い
それぞれのポイントについて、詳しく解説していきます。
・事業を継続しながら、債務を減らすことができる
民事再生は、裁判所から許可を得ることで法律に定められたように債務を減らすことができる手続です。その目的は会社を存続させることで、支払いも通常より長い期間にすることができます。最大で、120か月まで延長する事が認められているのです。
・経営陣を変更しなくてもいい
会社を再建したい場合、民事再生以外にも可能な手続きがあります。会社更生という手続きがありますが、この手続きでは経営陣が退陣する必要があり、経営に関わることはできなくなってしまいます。経営権は、管財人に移行するのです。
しかし、民事再生ではそのような条件はありません。監督委員が選任され、重要事項の決定には同意が必要とはなりますが、経営陣はそのまま経営権を保持できるのです。
・債権者全員の同意が必要無い
民事再生の手続きを行う際は、債権者の同意が必要となります。ただし、必ずしも債権者全員が同意する必要はありません。債権者の頭数の過半数、及び債権額を議決権としてその総額の2分の1以上の同意があれば、反対する債権者がいても手続きができます。
民事再生のデメリット
一方、民事再生にはこのようなデメリットもあります。
・担保権が設定されていると、権利を行使される可能性がある
・企業としての信用は低下する
・経営陣の退陣を要求されて手続きが進まないことがある
それぞれの点について、詳しく解説していきます。
・担保権が設定されていると、権利を行使される可能性がある
経営が苦しい時は、銀行からの融資を受ける際に担保権が設定される可能性が高くなります。その場合、たとえ民事再生の手続をした場合でも債権者が担保権を持っていれば、その権利を行使されることがあります。その結果、債権を回収する可能性があるのです。自社ビルが担保になっている場合などは、その後の経営が厳しくなるかもしれません。
・企業としての信用は低下する
民事再生は、裁判所を通じて行う手続きです。そのため、官報に公告されてしまうのです。また、帝国データバンクには様々な企業のデータがあるのですが、その中の倒産情報にも記録されてしまいます。ニュースでも、民事再生をした企業を見た事があるでしょう。同じように、報道される可能性もあります。その結果、企業としての信用は低下してしまいます。
・経営陣の退陣を要求されて手続きが進まないことがある
再建をする上で、債権者から経営陣の交代を求められることがあります。会社の経営難が経営陣に責任があるとされた場合に求められることが多いのですが、それに従わずに経営陣を残すこともできます。ただし、その場合は債権者が負債の圧縮に納得しなくなる可能性もあります。そうなると、必要な割合の賛成を得ることが難しくなり、手続が始められないかもしれません。
民事再生に必要な費用
民事再生では、裁判所に支払う予納金と、弁護士に支払う費用が必要となります。それぞれどのくらいになるのか、解説します。
裁判所に支払う予納金
裁判所に支払う予納金は、負債総額によって異なります。その額は、以下の表のようになっています。
負債総額 | 必要な予納金 |
---|---|
~5,000万円 | 200万円 |
5,000万円~1億円 | 300万円 |
1億円~5億円 | 400万円 |
5億円~10億円 | 500万円 |
10億円~50億円 | 600万円 |
50億円~100億円 | 700万円 |
100億円~250億円 | 900万円 |
250億円~500億円 | 1,000万円 |
500億円~1,000億円 | 1,200万円 |
1,000億円以上 | 1,300万円 |
これ以外にも、郵券や収入印紙を納めなければいけません。郵券は3,880円、収入印紙は10,000円必要です。
弁護士に支払う費用
弁護士に支払うことになる費用は、事務所によって異なります。目安としては、以下の表のようになっています。
負債総額 | 弁護士費用 |
---|---|
1億円以下 | 着手金 300万円 報酬金 600万円 |
2億円以下 | 着手金 400万円 報酬金 800万円 |
3.5億円以下 | 着手金 500万円 報酬金 1000万円 |
5億円以下 | 着手金 600万円 報酬金 1200万円 |
7.5億円以下 | 着手金 700万円 報酬金 1400万円 |
10億円以下 | 着手金 800万円 報酬金 1600万円 |
20億円以下 | 着手金 1000万円 報酬金 2000万円 |
30億円以下 | 着手金 1200万円 報酬金 2400万円 |
40億円以下 | 着手金 1400万円 報酬金 2800万円 |
50億円以下 | 着手金 1600万円 報酬金 3200万円 |
50億円超 | 見積が必要 |
第三者からの借入で準備する場合の費用
会社に予納金等の資金が足りずに、第三者から借入をして費用を準備することもあります。その場合は、民事再生の申し立てをしてから、監督委員の同意を得なくてはいけません。また、その際は共益債権化という手続きの承認申請が必要となります。この申請を忘れて手続きを進めてしまうと、その費用も再生債権の一部として扱われてしまいます。そうなれば、弁護士の説明不足というミスによる弁護過誤となってしまうかもしれません。
民亊再生の費用が払えない時の対処法
どうしても民事再生の費用が支払えない場合も、対処方法があります。その対処方法について、解説します。
費用の分割払いができるところに依頼する
依頼する弁護士事務所によって、支払の方法は異なります。その中には、費用を分割払いで支払うことも了承してくれるところもあります。
通常、民事再生の手続きは、費用が用意できることを前提として行われます。個人再生とは違って、裁判所に支払う費用も弁護士に支払う費用も高額になるため、当然ともいえるでしょう。そのため、民事再生をするのならその費用が用意できるうちに手続きをするものです。
しかし、中には民事再生をするタイミングを逃してしまい、全くと言っていいほど現金がなくなってから手続きをすることになるケースもあります。また、今後の運転資金だけならどうにかなるものの、民事再生の手続きに係る費用までは考えていなかった、ということもあり得ます。スポンサーから費用を借りる予定だったのに、スポンサーが下りてしまったというケースも考えられます。
弁護士に依頼をすると、後は手続き完了まで返済をする必要がなくなります。そうなれば、返済分を弁護士への依頼費用に充てることが可能です。必要な金額を納めるまで、手続きは始まりません。必要な金額を納め終わったら、正式に依頼したことになり手続きを始めることになるのです。
過払い金で費用を相殺できないか調べる
過払い金は、借金をした際に法律で定められた金利以上の金利を付けて返済していた場合に発生します。その金利で返済していたころに遡って、正しい金利で計算し直して、余分に支払っていた分があればそれを返還してもらえるのです。
過払い金は、個人の借金に限り返還請求ができると思っている人もいます。しかし、実は企業の借金であっても、過払い金があればその返還を請求することができるのです。過払い金は、返済していた期間が長ければ長いほど、返還される金額も大きくなります。何十年も返済を続けた借金があれば、過払い金にも期待できるでしょう。
過払い金が多ければ、依頼する費用を相殺できるかもしれません。過払い金が発生する可能性のある借金がある場合は、まず弁護士にそのことを相談してみましょう。会社の借金は、個人とは違って金額も大きくなるため、返還される過払い金も大きな額になりやすいのです。場合によっては、裁判所へと支払う予納金も賄えるかもしれません。
民亊再生後に費用が払えなくなったらどうしたらいい?
民事再生を開始してから、予定通りに費用や返済ができないということもあり得ます。その場合は、どう対処したらいいのでしょうか?
再生計画の変更
再生計画は、認可を受けた後でも見直して変更することが可能です。その変更内容が債権者にとって不利益な内容となる場合は、最初の再生計画案の認可を受けるときと同じ手続きが必要となります。つまり、多数の債権者の決議と裁判所から認可決定を受けることです。また、債権者に有利な内容へと変更する場合は、裁判所に変更申し立てをして決定されるだけでいいのです。
ハードシップ免責
再生計画が認可されたものの、その計画通りに支払うことができなくなることもあります。その場合、民事再生の中でも個人再生であれば、ハードシップ免責を利用できる可能性があります。
ハードシップ免責は、一定の条件を満たしていれば残りの返済は免除してもらえるというものです。その条件は、以下のようになっています。
・再生計画に基づいた返済を、それぞれの債権につき4分の3以上完了している
・債務者の責任を問われない事態で、再生計画の遂行が困難な状態になっている
・免責の決定が、債権者の一般の利益に反しない
・再生計画を変更するのが難しい
この条件を満たせない場合は、自己破産に切り替える必要があるでしょう。
もう一回新たに個人再生手続きを申請する
個人再生の中でも、小規模個人再生に限っては、弁済をしている途中で再び個人再生の申請ができます。その際は、小規模個人再生でも給与所得者等再生でも、どちらでも可能です。また、1回目が給与所得者等再生だった場合、2回目は小規模個人再生なら可能です。その場合は、まず1回目の再生計画で減額された債務は一度元に戻し、再び計算し直すこととなります。
小規模個人再生の場合は過半数の債権者の同意が必要となるので、2回目になると反対される可能性は高いでしょう。
民事再生を専門家に依頼した体験談
どんな会社でも、倒産の危機が訪れないとは限りません。また、民事再生は個人でもできるので、借金がある人は民事再生を選択する時が来る可能性もあるでしょう。そんな時に備えるために、民事再生の体験談を紹介します。
・民事再生(企業)
経営者 | 50代男性 |
借金総額 | 約5億円 |
輸入雑貨を扱う中小企業を経営していたのですが、輸入元の会社が倒産して代金を支払ったのに商品が入って来なくなりました。既に納品先との契約があったので慌てて他のところから輸入する手続きをしたのですが、一部しか納品できず違約金を支払うことになりました。
さらに、それ以前に納品したものに不具合が見つかり、リコールなどの対応にも追われることになり、多額の費用も発生しました。3つの銀行から融資を受けていたのですが、その返済も滞って督促も頻繁に受けるようになりました。さらに、中小企業金融公庫からも借入れて返済に回したのですが、資金繰りはますます悪化するばかりです。借金も、とうとう5億円近くにまで増えてしまいました。このままでは近いうちに倒産するしかなくなるので、その前にと思い民事再生を決意しました。
経営者仲間から、弁護士を紹介してもらい民事再生をしたいということを伝えると、可能ということで手続きを進めることにしました。費用は、裁判所への予納金が400万円、弁護士への着手金が600万円ほどです。さらに、成功した場合は成功報酬として1200万円が必要です。そのような資金はなかったので、会社が所有する用地のうち、優先順位が低い土地を売却することで、費用を捻出しました。
再生計画は無事に認可され、借金も大幅に減額できました。折しも、そのタイミングで輸入雑貨に人気が出始め、売上も増えてきました。あの時、倒産という道を選ばなくて本当に良かったと思います。
民事再生法の申請から手続き完了までの期間
民事再生手続きは、どのように進められるのでしょうか?手続きに要する期間と、その流れについて解説します。
民事再生手続きは、以下のような流れで進められていきます。
(1) 申立代理人となる弁護士の選定
(2) 申立の準備
(3) 裁判所に申立を行い、弁済禁止の保全処分決定
(4) 債権者への説明会(申立から1週間以内)
(5) 再生手続き開始(申立から1~2週間以内)
(6) 債務者の収益性の改善
(7) スポンサーの選定
(8) 債権者による債権届け出とその認否書の提出
(9) 財産の評定(開始決定から約1か月後)
(10) 再生計画案の提出(申立から約3ヶ月後)
(11) 再生計画案への合意(申立から約5ヶ月後)
(12) 再生計画の遂行と終結(最長で約10年)
民事再生の手続きが終わるまでは、最短でも約5ヶ月かかります。しかし、債権者の同意が1度で得られず、何度かやり直すようなことがあれば、期間が延長されることがあります。
また、弁済が完了するまでの期間は債権の額や支払い可能な額によって異なります。最長で10年かけて弁済する事が認められていますが、ほとんどの場合はその前に返済できるでしょう。
専門家に依頼した場合のメリット
民事再生の手続きを専門家に依頼すると、費用がかかります。それでも、専門家に頼むことはメリットが大きいのです。そのメリットについて、解説します。
取り立ての停止
個人での民事再生は、専門家に依頼すると債権者に向けて受任通知が送付されます。それを受け取った債権者は、債務者に直接取り立てや督促などを行うことは禁止されるのです。そのため、今まで取り立てを受けて悩んでいた人にとっては、取り立てから解放されることになり悩みから解放されるでしょう。
ただし、会社の民事再生手続きの場合は業務を続けながら手続きを行うため、依頼をした時点では受任通知が送付されません。そのため、取り立て等は停止されないので注意してください。取り立てが停止するのは、裁判所に保全処分の申立を行ってその決定が出されてからとなります。
返済の停止
取り立ての停止と同じく、個人の民事再生は専門家に依頼した時点で、返済も停止します。これは、手続きを進めていく上で債権額が変動すると困るということと、一部の債権者だけに返済されることがないようにするためです。返済が停止するので、その分を専門家への支払いに充てることができます。
会社の民事再生の場合は、やはりすぐには返済も停止しません。裁判所に保全処分の申立を行って、決定されると返済をする事が禁止されます。そうなれば、会社の資金繰りが出来なくなって破綻する、という事態からは逃れることができるでしょう。迫りくる期日におびえて、どうにか返済しなくてはいけないというプレッシャーから解放されるので、今までよりも少し楽な気持ちで過ごすことができるでしょう。
専門家に依頼した場合の手続き
専門家に依頼した場合、手続きはかなり簡単になります。ほとんどの事を専門家が代わりに行ってくれるので、自分で行うことは早い段階でほとんど終わってしまうのです。
専門家に依頼する場合の手続きは、以下のように進みます。
(1) 法律相談を申し込む
専門家の事務所に法律相談を申し込んで、民事再生が可能かどうかを確認します。その際は、弁護士や司法書士ならどこに申し込んでもいいという訳ではありません。それぞれ専門にしていることがあり、中には民事再生の経験がほとんどない、という所もあるからです。また、そもそも民事再生を受け付けていないこともあります。
選ぶべきなのは、なるべく民事再生をメインに取り扱っている所を選びましょう。民事再生の手続きは複雑で、必要な書類も多岐にわたります。そのため、不慣れな所に依頼するといくら専門家でも、ミスをしたり余計な時間がかかったりすることもあるのです。
(2) 民事再生手続を依頼する
民事再生が可能と判断されたら、手続きを依頼しましょう。その際は、手続きの流れやどのくらいの時間がかかるか、費用はどのくらい必要かなどの説明があるので、しっかりと聞いて判断しましょう。また、どのようなサービスを受けることができるかも、説明されます。依頼する事が正式に決定したら、委任契約書を交わします。専門家に委任状を渡すことで、裁判所への申立以降は代理人として債権者や裁判所とのやり取りを任せることができます。
(3) 裁判所への申立
裁判所には、民事再生の申立や保全処分の申立などを行うための申立書や、そのために必要な添付書類などを提出します。また、この時に予納金も合わせて支払います。
専門家に依頼した場合、この書類はほとんど作成してもらうことができます。ただし、中には本人が直接作成しなくてはいけない書類もあります。その際は、どのように作成すればいいのかを丁寧に教えてもらえるので、戸惑うことはあまりないでしょう。
これ以降は、債権者向けの説明会や財産の評価額をまとめた目録や会社の経営状況などをまとめた書類を提出したり、再生計画案を作成したりします。しかし、そのほとんどは専門家が代わりにやってくれるのです。そのため、裁判所に申立をした時点で、民事再生の手続きのほとんどは終了していると考えることができます。あとは、専門家にほぼ任せておくことができるのです。その後は、再生計画案の通りに弁済していきましょう。
まとめ
・民事再生は、会社を残して中身を立て直すことができる手続き
・会社の債務を減らしながら、業務はそのまま続けることができる
・経営陣も、今まで通りにできる
・担保が設定されている債権があれば、担保が売却されることもある
・社会的な信用は、低下してしまう
・民事再生にかかる費用は、裁判所への予納金と弁護士への依頼料がある
・裁判所に支払う予納金は、債券の額によって異なる
・弁護士には、着手金と成功報酬を支払う
・費用を支払うのが難しい時は、分割払いができるところに依頼する
・会社の借金でも、過払い金が発生していることがある
・民事再生を開始してから支払いが難しくなった場合は、免責などの方法がある
・どうにもならない時は、破産手続きに切り替える
・専門家に依頼すると、大きなメリットがある
・専門家に依頼した場合は、裁判所への申立が終わった時点で任せることができる
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