個人再生(民事再生)
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個人再生で退職金はどうなる?8分の1を清算価値にする仕組みとは

個人再生の手続きを検討している人の中には、退職金がどうなるのか気にしている人も少なくありません。もしかしたら、退職金が差し押さえられてしまうのでは?と不安になっている人もいるでしょう。
同じく債務手続の一種である自己破産の場合は、退職金も差し押さえの対象になります。しかし、個人再生の場合は差し押さえを受けて強制的に財産を分配されるということはありません。ただ、個人再生には返済額を決定する基準として清算価値というものがあり、退職金はそれに影響します。そのため、退職金の額によっては清算価値が高くなってしまい、個人再生後に返済する金額が高くなるリスクがあるのです。
所有している財産を処分する必要がないというのは、個人再生の大きなメリットであり、自己破産との違いでもあります。その代わりに、清算価値保障という形で自己破産よりも大きな金額を弁済しなくてはいけなくなるのです。個人再生を検討するのであれば、その点をしっかりと考慮しておきましょう。

個人再生をすると退職金はどうなるの?

個人再生の手続きをする際に、保有している財産は清算価値として計上されます。そして、退職金もその全額、もしくは一部が財産として扱われ、計上されることになります。その仕組みについて、解説します。

清算価値保障原則とは

清算価値保障原則というのは、個人再生の手続において返済額を計算する際に用いられるものです。手続きをする人が財産を所有している場合、最低限その財産の評価額の分は支払わなければならない、となっています。つまり、所有している財産の価値が弁済額の下限となります。
退職金は、まだ受け取っていなくても将来的に受け取る予定があるのであれば、退職金債権として計上されることとなります。債権となっている以上、資産の一部として扱われるのです。そのため、清算価値基準を計算する際はそれに含めます。

清算価値として計上される財産例

清算価値は、以下のような財産が計上されます。

清算価値の対象評価方法
現金所有している現金のうち、99万円を超える分
預貯金銀行等の口座にある預貯金のうち、20万円を超える分
生命保険解約時返戻金のうち、20万円を超える分の見込額
自動車・バイク等現時点での査定額(20万円を超える場合)
不動産不動産会社の査定額(ローン残高を差し引いた額)
株式・投資信託その時点の額
退職金退職金評価額が160万円を超える場合の8分の1
過払い金返還されて手元にある金額か、その請求権がある場合の回収見込み額
損害賠償請求権加害者に請求できる損害賠償の金額
貸付金未回収の金額
売掛金未回収の金額

上記のように、財産の種類によって計算方法は異なります。現金は99万円を超える分なので、例えば150万円持っている場合は51万円が計上されます。預貯金は20万円を超える分なので、30万円ある場合はそのうち10万円が計上されます。生命保険の解約時返戻金は見込額で計上されますが、これも20万円を超えた分だけが計上されます。
自動車などは、現時点での査定額が20万円以下の場合は計上されません。しかし、20万円を超える場合はその全額が計上されます。査定額が15万円なら計上されず、25万円なら25万円が計上されるのです。
退職金だけは、金額や状況によってその割合も異なります。これについては、後ほど詳しく解説します。

個人再生をしても退職金を8分の7受け取るための条件

個人再生では、退職金も返済額を決める基準として計上されます。その額が大きければ、返済する金額も増えてしまうのです。
借金額に応じて減額される、最低弁済基準は以下の表のようになっています。

借金の総額最低弁済基準
100万円未満減額されない
100万円~500万円未満100万円
500万円~1,500万円未満負債額の5分の1
1,500万円~3,000万円未満300万円
3,000万円~5,000万円以下負債額の10分の1

この金額と所有している財産の清算価値基準とを比較して、高い方が実際の返済額となります。退職金は、計上される割合が退職の時期によって異なります。詳しくは、後述します。
清算価値が高額になってしまうと、個人再生をしても借金が減額される割合は少なくなってしまい、場合によっては全く減額されない可能性もあります。例えば、借金の総額が500万円の場合、最低弁済基準は100万円になります。しかし、清算価値基準が300万円だと返済額も300万円になってしまいます。もし、清算価値基準が500万円以上であれば、借金は全く減額されなくなるのです。

清算価値として計上される割合は退職時期により異なる

退職金は、退職を考えている時期によって返済額を決める基準として計上される割合が異なります。具体的には、以下の表のようになっています。

退職時期清算価値基準に計上される割合
退職予定が今のところない退職金見込額の8分の1
既に退職して近日中に退職金を受け取る予定、もしくは既に退職の予定を立てている退職金の4分の1
退職して、退職金も既に受け取っている退職金に該当する現金および預貯金の全額

それぞれの退職時期ごとに、詳しく解説します。

退職予定がない場合

個人再生をするには、継続して安定した収入がなくてはいけません。そのため、手続きをする人のほとんどはこのケースに当てはまると思われます。原則として、個人再生をした後の返済が終わるのは3年後になるので、その時点で退職しようと考えている場合でもこれに当てはまります。
まだ退職する予定がない場合は、現時点での退職金見込額を基準としてその8分の1が計上されます。ただし、必ずこの割合になるとは限りません。裁判所の多くがこのような割合としているのですが、一部の裁判所では異なるケースもあるため、注意してください。
退職予定がない場合、退職金を受け取るのはかなり先になるでしょう。その際に、退職金が本当に支払われるかどうかが不確実なので、本来は4分の1となるところを更に半分の8分の1として計算しているのです。例えば、退職金が120万円ならその8分の1、15万円が計上されます。300万円なら37万5千円です。
東京地方裁判所では、この時計上される金額が20万円以下の場合は、預貯金などと同じく財産として計上しなくてもいい、としています。これは裁判所によって解釈が異なるため、事前に確認しておきましょう。

退職したが退職金をまだ受け取っていない、または近い将来退職する場合

退職する予定が決まっている場合や、退職金を受け取ることが決まっている場合は、確実に得られる財産としてその4分の1を清算価値基準に計上することとなります。残りの4分の3は、民事執行法第152条において差し押さえ財産として定められているのです。ちなみに、退職年金や給料、賞与、賃金、俸給なども同様の割合で差し押さえ禁止財産とされています。
例えば、退職金が300万円なら、75万円が計上されます。残りの225万円は、差し押さえ禁止財産になるのです。

すでに退職し、退職金を受け取っている場合

既に退職している場合で、退職金も受け取っているという場合は、既に退職金債権という扱いではなく単なる現金や預貯金として扱われます。そのため、現金もしくは預貯金の一部として、全額計上されます。この場合は、差し押さえ禁止財産などの制限はありません。

退職金を少しでも多くもらう方法とは?

個人再生の手続をしても、退職金そのものが減額されることはありません。ただし、保有する財産としては計上することになります。
計上される財産の額が大きくなればなるほど、借金が減額される割合は小さくなってしまいます。そうなると個人再生の手続きをする意味が薄れ、手続後の返済額も大きくなってしまうのです。それを避けるには、退職金を受け取るタイミングが重要となります。

「再生計画の認可決定」以降に退職金を受け取る方が良い

受け取ることのできる退職金の額を少しでも多くしたいのであれば、退職金を受け取るタイミングは「再生計画の認可決定」以降となるようにしましょう。個人再生の手続を開始してから再生計画の認可決定が出されるまでにかかる期間は、およそ6ヶ月です。現在の職場を退職することを考えていて退職金が支払われるのであれば、退職するタイミングはよく考えておきましょう。

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退職金の支給前に個人再生するなら「退職金見込額証明書」が必要

個人再生をする際には、いくつかの書類が必要です。そのうちの一つに、退職金見込額証明書という書類があります。これは、あまり聞き覚えがないという人も多いでしょう。どのような書類なのか、退職金見込額証明書について、詳しく解説します。

現時点の退職金見込額を把握する方法とは?

退職金の額について、把握している方は少ないでしょう。就業規則などで計算方法が定められていることも多いのですが、実際に計算するとなると意外と複雑なため、正確な額を把握するのは難しいのです。正確に把握したい場合に用意するのが、退職金見込額証明書です。これは、勤務先が発行するもので、現在退職したと仮定した場合の見込額を証明するためのものです。

勤続年数5年未満なら退職金証明書は不要?

通常、退職金は誰にでも支払われるわけではありません。一般的には、5年以上の勤続年数が退職金をもらえるかどうかの分岐点といわれています。そのため、現在の会社で働き始めてから5年未満なら、退職金が出ないので退職金見込額証明書も必要ないのでは?と思うかもしれません。しかし、実はそうとは限らないのです。
東京都が調査した結果を見ると、退職金の支給要件は3年としている企業が最も多いのです。その要件を満たしているなら、勤続年数が5年未満であっても証明書は必要になります。また、その要件を満たしていないせいで退職金が支払われないという場合は、それを証明することができる資料を裁判所に提出するよう求められるかもしれません。

個人再生を会社に知られたくない場合は?

債務整理をする場合、それをほかの人に知られたくないという人は多いでしょう。特に、会社に知られてしまうと今後働きづらくなる可能性もあり、社内でも噂になってしまうかもしれません。ところが、この証明書は会社に発行してもらう必要があります。普通はあまり発行しない書類なので、様々な憶測をされてしまうでしょう。発行を依頼した時に、用途を聞かれるかもしれません。そういった理由から、発行したくないと考える人は多いのです。そういったときの言い訳としては、ローン審査のために必要というのが一般的です。住宅ローンなどのローンを組む時は、収入状況を確認する書類が必要となります。しかし、具体的な必要書類は銀行によって若干異なるのです。退職金見込額証明書はあまり必要とされることがないのですが、銀行から提出を求められたといえばわざわざそれを拒否されることはまずないでしょう。
もしくは、会社に依頼せずに自分で計算するという方法もあります。退職金が支払われるのであれば、就業規則にその金額の計算方法が規定されています。その規定されている計算式に従って計算すれば、金額はわかります。その場合、計算結果だけではなく就業規則の規定部分のコピーも裁判所に提出する必要があります。これが正しくできれば、会社に証明書の発行を依頼しなくてもいいのです。
細かい計算方法は会社によって異なりますが、一般的な式としては退職時の基本給に勤続年数を掛け合わせ、それに一定の支給率を掛けたものが退職金となります。就業規則は、作成して届け出る義務がある10人以上の常時雇用される従業員がいる会社なら、従業員が自由に閲覧できる状態にしておくことが義務付けられています。もし、就業規則を観たいといって断られるようなら、労働基準法違反となるのです。その場合は、労働基準監督署に相談できます。ただし、閲覧は原則として社内で行うことになります。
中には、独自の退職金制度を採用している会社もあります。社内の等級や資格などを基にしたポイント制などが、それにあたります。その場合は、会社からの通知書類などに記載されていることもあるので、確認してみるとわかるかもしれません。

退職金制度がない場合は?

退職金は、すべての会社にあるとは限りません。退職金がない会社もあるので、その場合は証明書の発行もできません。もし退職金がないのであれば、そのことを確認できる資料などを提出しなくてはいけません。その際は、就業規則のコピーなどを提出しましょう。もし、そのことが証明できる書類がない場合は、そのことを証明する書類の作成を会社に依頼してもらう必要が生じるかもしれません。

確定拠出年金などは退職金扱いにならない

最近では、退職金制度がない代わりに確定拠出年金を採用している会社も増えています。その場合、個人再生の清算価値基準として計上する必要はありません。確定拠出年金については確定拠出年金法で定められているのですが、その中に給付を受ける権利は差し押さえができないとされているのです。そのため、全額が差押禁止債権になるのです。
また、これ以外にも法律で守られている資金があります。以下の資金は、差し押さえできないものと定められています。
・確定給付企業年金
・中小企業退職金共済法による退職金
・小規模企業救済制度による退職金
・厚生年金基金
・社会福祉施設職員等退職手当共済法による退職金

これにあてはまる場合、退職金であっても清算価値基準に計上する必要はありません。
ただし、注意したいのがすでに受け取り済みのケースです。その場合は、通常の退職金と同じく普通の現金や預貯金として扱われるため、全額を清算価値に加えられてしまうのです。該当する資金をすでに受け取っている場合は、注意してください。

会社に借金がある場合はどうなるの?

会社の中には、従業員に対して貸付を行う制度があるところもあります。それを利用して、会社からお金を借りているという人もいるでしょう。その場合、退職金と相殺されてしまうことはあるのでしょうか?
労働基準法では、賃金は通貨でその全額を直接労働者に支払うことと第24条に定められています。例外とあるのは、法令や労働協約に別の支払い方法が定められている場合です。また、労働組合や労働者の過半数の代表者との協定が書面である場合に限り、支払の際に賃金の一部が控除されます。
この労働基準法の中で、給与や退職金を担保にして相殺することは禁止されているのです。そのため、会社に借金があったとしてもその分退職金が減額されるということはありません。
ただし、双方が合意した場合は別です。会社と従業員が、それぞれ自由な意思に基づいて給与や退職金から借入金を差し引くと合意している場合は、それに基づいて相殺できます。これは、給与や退職金などの前借りをした場合などに該当するでしょう。その場合は、会社から借りている分は別除権付債権として扱われるため、減額することもできません。そのため、会社からの借金については減額されないのです。個人再生において清算価値基準に計上する場合は、退職金から会社の借金を相殺したうえで、見込額の残額を基準として、その一部を計上することになります。

まとめ

・個人再生をする際は、退職金が一定の割合で清算価値基準に計上される
・清算価値基準は、所有している財産の額を返済額の基準とするもの
・退職金が高額であれば、個人再生で減額される割合が少なくなる
・会社を退職する予定が現在のところない場合は、退職金の8分の1を清算価値基準に計上する
・近いうちに退職する予定がある場合や、退職してまだ退職金を受け取っていない場合は、退職金の4分の1が計上される
・すでに退職金を受け取っている場合は、全額になる
・退職金と違って、確定拠出年金は全額が差押禁止財産になっている
・会社に借金がある場合は、労働基準法に従って給与や退職金とは相殺されない

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