民事再生手続きの期間はどれくらい?流れや申立の条件を徹底解説
会社が経営破綻に陥った時、取れる方法はいくつかあります。その中で、会社を再建したいと思った時に選ばれる方法のひとつが民事再生です。しかし、いざ民事再生をしようと思っても、どのくらいの期間がかかるのか分からないと、いつ会社を再建できるか見当がつかず不安になることもあるでしょう。民事再生にかかる期間はその会社によって異なりますが、東京地方裁判所で示されている平均では、申立をしてから再生計画が認可されるまでは約5ヶ月とされています。
不況によって、経営不振になっている企業は数多くあります。その際は、負債が大きくならないうちに破産を選ぶのも一つの手でしょう。しかし、再建を図っているのであれば、民事再生を検討してみましょう。民事再生は、会社を残すことができ経営陣を交代する必要もありません。手続きにかかる期間も短いので、素早く立て直すことができるのです。
ここでは、民事再生の期間や流れについて、詳しく解説していきます。
民事再生とは
そもそも、民事再生というのはどのようなものなのでしょうか?破産とはどう違うのか、またどのような会社が利用できるのかを解説します。
民事再生と破産の違い
会社の倒産に伴う手続きには、大きく分けて2種類あります。それは、再建型と清算型です。このうち、再建型の代表的な手続きが、民事再生です。そして、清算型の代表的な手続きが破産です。
民事再生は、民事再生法に基づいて行われる手続きです。現在の債務を返済できる金額まで減額してもらい、会社の事業を立て直してその営業利益から返済します。通常は、スポンサーを見つけて資金援助をしてもらいながら再建を進めていきます。
それに対して破産は、破産法に基づいて行われる手続きです。会社に残っている財産を換価処分し、それを債権額に応じて債権者へと分配して、会社の法人格を消滅させます。そうして、会社そのものを無くしてしまうという手続です。
民事再生できる会社の条件とは
民事再生は、どの会社でもできるわけではありません。まず、債務超過などの状態に陥っているか、そうなる可能性が高い状態でなくてはできません。そのうえで、再生の見込みがあることが条件です。
具体的には、実現可能で債権者が納得できる再生計画案を作成できることや、手続きが終わるまでの運転資金が調達できること、減額できない税金などの滞納が少ないことなどが条件となっています。
民事再生のメリット・デメリット
民事再生には、いくつかのメリットがあります。しかし、メリットばかりではなく、デメリットもあるのです。どのようなメリット・デメリットがあるのか、解説します。
民事再生のメリット
民事再生の主なメリットは、4つあります。
1つ目は、事業を存続できるということです。民事再生は、事業を今まで通り継続したうえで、債務を減額できる手続きです。その点が、清算型の破産、あるいは特別清算とは大きく異なる点です。そのうえで、立案する再生計画の内容を順守して実行することができれば、会社も特に縮小することなく再建が叶う可能性もあるのです。また、残った債務も返済には原則として10年の猶予があるので、余裕をもった返済計画を立てることもできるでしょう。
2つ目は、経営者をそのままにして手続きができるという点です。倒産手続きの中には、経営陣が退陣しなくてはいけないものもあります。その場合、大企業ならすぐに代わりの経営陣が見つかるかもしれませんが、中小企業の場合は代わりに経営ができるような人材がおらず、経営が立ちいかなくなることもあるのです。計画通りに再建できれば、これまでと同様の形で経営を続けることができます。
3つ目は、資金を確保しやすいという点です。申立をすると、対象になっている金融機関の口座に預金として入金された分は、債務との相殺に用いるのが禁止されています。ということは、民事再生の通知をしてから入金した分は、そのまま手元に残すことができるのです。そのため、民事再生では必要資金をある程度手元に残しておくことができます。特に、すでに経営危機になっている中小企業の場合は、当座の資金が多少あるだけでも大きな違いとなるでしょう。
4つ目は、必要な期間です。民事再生の申立をすると、再生計画案の決議をされます。それから、計画を実行するのです。申し立てをしてから再生計画案の決議をされるまでの期間は、平均で5か月ほどとされています。そのため、早ければ1年以内には手続きが終わり、会社再建が実現します。ただし、必ず1年以内に終わるというわけではありません。計画内容が不十分だと、経営が回復しないことも考えられます。そのため、再生計画を作成するときは十分に検討して作成しましょう。
民事再生のデメリット
デメリットも、主に4つあります。
1つ目は、手続きをするにはコストが発生するという点です。民事再生の手続きをする際は、裁判所に予納金を納める必要があります。その金額は、債務の総額によって決められています。債務の総額と予納金の額の関係は、以下のようになっています。
負債総額 | 必要な予納金 |
---|---|
~5,000万円 | 200万円 |
5,000万円~1億円 | 300万円 |
1億円~5億円 | 400万円 |
5億円~10億円 | 500万円 |
10億円~50億円 | 600万円 |
50億円~100億円 | 700万円 |
100億円~250億円 | 900万円 |
250億円~500億円 | 1,000万円 |
500億円~1,000億円 | 1,200万円 |
1,000億円以上 | 1,300万円 |
また、民事再生の手続きは基本的に、専門家に依頼して進めます。その際は、専門家にも報酬を支払わなくてはいけません。その金額も債務総額によって異なり、詳しい金額は専門家の事務所ごとに定められています。参考として、弁護士に依頼した場合の着手金と報酬金の相場を紹介します。
負債総額 | 弁護士費用 |
---|---|
1億円以下 | 着手金 300万円 報酬金 600万円 |
2億円以下 | 着手金 400万円 報酬金 800万円 |
3.5億円以下 | 着手金 500万円 報酬金 1000万円 |
5億円以下 | 着手金 600万円 報酬金 1200万円 |
7.5億円以下 | 着手金 700万円 報酬金 1400万円 |
10億円以下 | 着手金 800万円 報酬金 1600万円 |
20億円以下 | 着手金 1000万円 報酬金 2000万円 |
30億円以下 | 着手金 1200万円 報酬金 2400万円 |
40億円以下 | 着手金 1400万円 報酬金 2800万円 |
50億円以下 | 着手金 1600万円 報酬金 3200万円 |
50億円超 | 見積が必要 |
基本的には、予納金よりも専門家に支払う報酬の方が高額となります。民事再生の手続きには、まとまった金額の資金が必要となることに注意しましょう。
2つ目のデメリットは、担保権です。民事再生を申し立てて債権者に債務の減額を申し出た際、担保が設定されている債務については担保権を行使されてしまうことがあります。その担保次第では、今後の事業に支障をきたすことも考えられます。もし、事業に支障が出る可能性があるのなら、あらかじめ担保権を持っている債権者と相談し、別途弁済協定を締結しておきましょう。
3つ目のデメリットは、税金が課されるということです。債務を免除してもらうと、その分の金額を債権者からの贈与として扱われてしまいます。その分に対して、債務免除益課税という税金が課されてしまうのです。これが高額になり、再生計画に支障が出ることもあるので、注意しましょう。
4つ目のデメリットは、社会的信用リスクです。どのような方法でも、倒産手続きをすると社会的に経営が危ういと思われて、信用がなくなってしまうのです。民事再生でも、それは例外ではありません。売り上げの減少につながるケースもあるので、注意してください。
民事再生手続に要する期間
民事再生手続の申立から認可までにかかる期間は、平均で6か月とされています。ただし、これは手続きがスムーズに進んだ場合の期間です。実際には、再生計画の内容に不備があって作成し直すことや、債権者からの同意を得られずにやり直すことなどもあるため、それ以上に時間がかかることも少なくありません。その場合は、1年以上かかるケースもあります。
また、債権者の人数が多かったり、債権額が大きかったりすると、やはり手続にかかる時間は長くなります。返済が可能な額によっても、期間は変わってくるのです。
スポンサーからの援助が必要な場合は、申立前にスポンサーを選定しなくてはいけません。その場合も、選定作業に時間がかかることがあります。
完全に民事再生が終わるのは、返済が終わって完済したタイミングです。最長で、10年での分割返済が認められているのですが、実際にはその前に返済し終わることが多いでしょう。
民事再生手続きの流れ
民事再生手続きの、一般的な流れについて解説します。手続きをする際は、以下のようなステップで進んで行きます。
(1)専門家への相談
まずは、専門家に相談することからスタートします。民事再生など会社の再生や破産に詳しい専門家に相談して、現在の状況を確認します。事業の状況やどのくらいの債務があるのか、毎月の返済はどのくらいなのかなどを確認し、民事再生ができるかどうかなども判断します。もし、条件的に民事再生では難しいという場合は、別の方法を提案されることになります。
(2)手続の依頼
民事再生が可能と判断されたら、そのためにかかる費用や具体的な手続の内容、必要な期間などを説明されます。その内容に問題がなければ、専門家に手続きを依頼して契約書を交わします。弁護士の場合は、委任契約となるので委任状を渡すことになります。その場合は、これ以降の債権者や裁判所とのやり取りは、弁護士が代行することとなります。
(3)再生手続の申立、および保全処分の申立
依頼を受けたら、まずは民事再生と保全処分についての申立を行います。添付する書類などを用意して、裁判所に申立を行い申立書と添付書類を提出します。その際は、負債の額に応じた予納金を納める必要があります。予納金の額は、先立って説明したように最低200万円、それ以降は段階的に増えていき、最大で1,300万円となっています。
専門家に依頼した場合は、必要な書類などはすべて代行して作成してもらうことができます。ただし、民事再生の経験が少ない専門家に依頼した場合は、書類作成の際に依頼者の負担が増えることもあるので、注意しましょう。そうならないよう、経験が豊富な専門家を選ぶことをおすすめします。
(4)保全処分についての決定と裁判所による監督委員の選任
申立を行って、裁判所から保全処分についての決定が出されれば、それ以降は借入金などの債務の支払いは禁止されます。仕入れ債務も、支払ってはいけません。その時点で返済にかかる出費がなくなるので、当面は資金繰りの破綻を免れることができるでしょう。債務がなくなったわけではありませんが、この時点でプレッシャーはかなり軽減され、多少は落ち着くでしょう。
また、それと同時に裁判所では、手続きについての監督をする監督委員を選任します。これには、弁護士が選任されます。
(5)債権者に対する説明会
債権者に連絡して集まってもらい、民事再生を申し立てたことや現在の財務状況、今後どのように手続きを進めていくかを説明して、協力してもらえるよう要請します。これは、通常申立から1週間以内に行われます。その際は、債権者に対して返済ができないことをお詫びして、今後協力してもらえるよう誠心誠意お願いする必要があります。
この時は、事前に専門家からアドバイスを受けることができます。どのようなケースが考えられるのか、あらかじめ相談しておきましょう。説明に必要な資料なども、教えてもらうことができます。
(6)再生手続の開始決定
申立から1~2週間ほどで、裁判所から再生手続の開始決定が出されます。その際は、債権者に対して再生手続の開始通知書とともに、債権届出用紙が送付されます。債権者はそれを受け取って、裁判所に債権の額を報告します。
(7)財産や業務についての報告
現在の会社の財産について、その価値を評定して、その目録を作成します。併せて、貸借対照表や民事再生を行う理由や会社の業務などについての報告書も作成し、裁判所へと提出します。この書類の作成も、専門家に依頼することができます。会社ですでにある程度用意されている場合もあるでしょうが、裁判所に提出する際の書式とは異なっているケースもあるので、その場合も一度専門家にチェックしてもらったほうがいいでしょう。
(8)債権認否書の調査結果の提出
債権者から提出された債権について、間違いがないかを調査して確認し、その結果を裁判所に提出します。この時は、間違いがないように1つずつチェックして債権認否書を作成していきます。その書類の作成も複雑な点があるので、その作成も専門家と協力して行う方がいいでしょう。
(9)再生計画立案
債権が明らかになったら、そこからどのくらい免除してもらえれば返済できるのか、残債の返済にはどのくらいの期間がかかるのかなどを判断します。その内容を、再生計画として作成します。内容は、現実離れしていると認可されません。必ず、実現可能な条件で作成しましょう。作成した書類は、裁判所へと提出します。
再生計画案の内容は、債権者に説明して納得してもらわなくてはいけないので、内容に説得力と必然性があるかどうかが重要となります。これも、経験が重要になる点なので、専門家からのアドバイスを受けながら作成しましょう。
(10)計画の決議と認可
計画の内容は、債権者集会で決議されます。一定以上の賛成を得られれば、裁判所で認可するかどうかを決定します。必要になるのは、集会に出席している債権者の過半数、並びに欠席した債権者の分を含む債権の総額のうち2分の1以上の賛成です。その賛成を得たうえで裁判所からにも認可されれば、無事に民事再生が認められたことになります。
(11)計画の実行
民事再生が認められた場合は、それ以降計画の通りに返済していくこととなります。
認可を受けると、それから3年間は裁判所の監督下に置かれます。その期間中は、再生計画に基づいて行われる返済に関しては、裁判所に報告しなくてはいけません。
3年が経過すると、民事再生については裁判所から終結決定が出され、その監督課からは外れます。返済自体は、その後も続けていくこととなるでしょう。
民事再生手続きを早く終わらせる方法とは?
会社の再建を目指すと決めたのなら、なるべく早く民事再生の手続を終えて再建に向けて動き出したいと思うことも多いでしょう。民事再生手続きをできるだけ早く終わらせるには、どうしたらいいのでしょうか?
民事再生手続きにかかる時間を短縮したい場合は、いくつかのポイントに気を付けなくてはいけません。まず気を付けたいのが、申立をスムーズに行うことです。民事再生手続きは、裁判所に申立をして行う手続きです。そして裁判所はルールに厳格なので、まずは申立をする要件がきちんと満たされているかどうかをチェックされます。その要件が満たされていなければ、まず申立ができません。そして、要件を満たしていたとしても、書類に不備があるとやり直しになってしまいます。民事再生手続きを何度も扱っている経験豊富な専門家に依頼すれば、書類に不備がないように代行して作成してもらうことができます。また、添付する書類も適切に教えてもらうことができるので、よく相談したうえで申立をしましょう。
次に気を付けたいのが、債権者の同意をスムーズに得ることです。再生計画案を作成し、債権者にその内容を説明して同意を得ることになるのですが、その内容が不適切な場合は債権者も同意してくれません。例えば、返済計画が明らかに無理のあるものであったり、予想される営業利益に対して返済可能な金額が明らかに少なかったりすると、同意を得ることは難しいでしょう。もし同意を得られなかった場合は、再生計画を考え直す必要があります。そのうえで再度債権者集会を開催しなくてはいけないので、かなりの時間がかかるのです。
同意を得るためには、事前に行う説明会で誠心誠意お願いをすることが大切です。民事再生では、債務を返済可能な金額まで引き下げてもらう必要があるのですが、それに同意するかどうかは債権者次第です。貸したお金のうち、一部しか返済できないことに納得してもらうというのが民事再生手続きなのですが、債権者にはそれに同意する義務はないのです。納得してもらうためには、どうしても会社を立て直したいということを説明し、そのために協力してもらいたいという気持ちを伝えなくてはいけません。また、一部しか返済できないことに対する謝意も大切です。今すぐ会社を倒産させて残った財産を分配するよりも、こちらの方がいいと思ってもらわなくてはいけないのです。
手続の途中で、財務報告や債権の認否なども行う必要があります。そういった手続きも滞りなく進めることで、民事再生手続きは早く終わるでしょう。
民事再生を検討した方がよい会社とは
民事再生を検討したほうがいい、という会社は、どのような会社なのでしょうか?その条件について、解説します。
私的整理に債権者の一部が反対している場合
事業再生の手続のひとつに、私的整理というものがあります。これは、裁判所に申立を行うのではなく、債権者と直接交渉して事業の再建を行うための手続きです。この手続きでは、対象となる債権者は金融機関のみとされているため、取引先の会社に支払う代金などは含まれません。
この手続きは、外部にほとんど知られることなく進めることができます。なぜなら、金融機関には守秘義務があるからです。そのため、取引先に知られることはなく、事業再生をすることの信用毀損などもほとんどないので、事業に影響が出にくい手続きです。ただし、条件としてすべての債権者が同意していなくては手続きができないのです。
一部の債権者が反対して、その条件などを変更しても同意を得られなかった場合は、私的整理は難しいでしょう。民事再生の場合は、債権者の過半数、および債権額の総額の2分の1以上の債権者の同意を得ることができれば、一部が反対していても手続きができます。そのため、こういったケースでは民事再生を検討するべきでしょう。
金融債権者以外の債権が多い場合
私的整理の対象となるのは金融機関などの金融債権者のみなので、それ以外の負債が大きい場合は手続きをしても事業再生が難しくなります。例えば、仕入れ元への買掛金などは減額できません。それが事業を継続するうえで妨げとなっているのであれば、私的整理が認められたとしても債務を圧縮することができないのです。
資金繰りの状況がすでに限界となっている場合や、差押えなどを受けている場合
すでに資金繰りが限界となっていて、経営破綻が目前となっている場合は、民事再生を検討しましょう。民事再生の申立てをすると、同時に保全処分の申立も行います。保全処分が決定すると、借入金などの債務の返済はそれ以降禁止されるため、当面は資金繰りの心配がなくなります。
また、すでに返済が滞っていて差押えや仮差押えを受けている場合も、民事再生手続の申立をするとそれが取り消されます。また、それ以降は手続きが終わるまで、差押え等をされることはなくなります。特に、預金を差押えられていると、資金繰りに使用するつもりだった資金が使えなくなってしまいますが、それが取り消されることで資金を使用できるようになるため、事業が存続できるようになるでしょう。売掛金などの差押えについても、回避することができます。
ちなみに、私的整理は裁判所を通じて行う手続ではないので、差押えの解除や返済の禁止といった効力はありません。そのため、資金繰りに困った場合は民事再生を検討したほうがいいのです。
契約が事業再生の妨げとなる場合
店舗などの出店をする際は、定期借家契約を結んでいるケースがほとんどです。この契約では、例えば事業を見直すために収益性が低い店舗を閉店する際に、契約期間が残っているために解約できない、ということが起こるケースがあります。例えば契約期間が3年残っている状態で契約を解除しようとすれば、一括で3年分の賃料を請求されてしまうのです。また、その場合は敷金や保証金も返金されないケースがほとんどです。そのせいで、閉店させずにその店舗を存続させている会社は少なくないでしょう。
民事再生手続きをすると、こういった契約は解除することが認められています。たとえ契約書に中途解約ができないと明記されていても、民事再生法では契約の解除が認められているのです。
不採算店舗を残しておくと、その間赤字を増やし続けることになります。そのせいで資金が減ってしまうと、事業再生は困難になってしまうでしょう。そうならないように、民事再生手続きをして早急に解約することをおすすめします。
民事再生の申立てをする際の留意事項
民事再生手続きを申し立てる際は、いくつかの点に注意しなくてはいけません。その留意事項について、解説します。
資金繰りの確保
民事再生手続きを申し立てると、それ以降は金融機関から新規に融資を受けることは通常できなくなります。そのため、手続が終わるまでの運転資金は自力で調達しなくてはいけません。平均して6か月はかかるので、その間は融資を受けなくても事業を継続できるだけの資金が必要とされるのです。具体的な金額は会社によって異なるので、一概には言えません。過去1年分の資金繰りの実績と売掛金や金融債務の返済状況、固定費などを見て、検討する必要があります。民事再生を申し立てると、その後は弁済を禁止されるのでこれまでかかっていた返済分は必要なくなります。その代わり、入金されることを期待していた売掛金などが売掛先で相殺されて回収できなくなるケースもあります。また、取引先が現金取引やサイトの圧縮を要求してくることもあるでしょう。そういった点も踏まえたうえで、資金を用意する必要があるのです。6カ月というのはあくまでも平均で、もっと長くかかることもあり得ます。そのため、ギリギリ6か月分では間に合わないこともあるので、可能な限り資金に余裕を持たせましょう。もし、資金が用意できない場合などは、スポンサーを見つけて資金を援助してもらう必要があります。
また、手続の際は代理人弁護士への依頼や、専門家に手続の補助をしてもらうことになりますが、その費用もかなりのものとなります。さらに、裁判所に予納金も納付しなくてはいけません。その金額は負債総額によって異なりますが、例えば負債総額が1億2千万円なら、弁護士に支払う費用の目安は着手金300万円、報酬金600万円となります。さらに、裁判所には400万円を納めなくてはいけません。合計で、1300万円が必要となるのです。
これらの資金がなければ、民事再生手続きが開始できません。資金がなくなるギリギリで申立をするのではなく、余裕があるうちに申立をしましょう。
商取引債権の取り扱いの検討
民事再生手続きの申し立てをした後の資金繰りは、重要です。その中で検討するべき点の一つが、商取引再建、買掛金です。金融機関だけではなく、商取引債権も民事再生ではカットされる対象となり、弁済も禁止されます。しかし、そうなると取引先に迷惑をかけることになり、今後の取引は打ち切られてしまう可能性もあります。また、金額や規模によっては取引先も事業再生をしなくてはいけない事態になるかもしれません。取引相手には、どう対応すればいいのでしょうか?
資金繰りに余裕があるケースでは、一定の条件下で裁判所の許可を得ることができれば、通常通り弁済ができます。商取引債権は、カットの対象にはならず弁済禁止にもならないのです。それができるなら、取引先には迷惑をかけずに済むでしょう。
しかし、資金繰りに余裕がないケースではどうすればいいのでしょうか?このケースでは、取引先との関係が気になって手続きをためらうことが多いのです。しかし、今後のことを心配して手続きをしないままにすると、資金繰りはさらに厳しくなってきます。回復する見込みがないのなら、遠からず破綻してしまうでしょう。そうなってしまえば、社員の給与も未払となってしまい、事業存続どころではなくなります。最終的な選択肢は、破産しかなくなるでしょう。事業が悪化してから民事再生を申し立てても、必要な資金を確保することは難しくなり、債権者が回収できる金額も少なくなってしまいます。さらに、事業の継続ができなくなると取引先は取引相手を1社失うことになってしまうのです。もし継続できれば、取引先は取引を継続できます。そうすれば、その利益によってカットされた債権の分もいずれ回収できるでしょう。そのため、取引先にとっても破産するよりは、民事再生手続きをしたほうが得になることが多いのです。こういった事情をしっかりと説明すれば、ほとんどの会社は民事再生に協力的となってくれて、取引を打ち切られることもありません。また、それでも難色を示されるようなら、代替の取引先を見つけられるかどうかを検討するなど、事業継続のためのシミュレーションを行う必要があります。
民事再生法の年間の申立件数
民事再生法は、年間でどのくらいの会社が申立をしているのでしょうか?
年間申立件数
2019年のデータを見ると、民事再生の申立は年間で351件となっています。これは、2018年と比較すると39.3%増加しています。また、倒産件数全体では8354件で、そのうちの4.2%を占めています。それ以外の倒産手続きでは、破産が最も多く92.4%に当たる7716件、特別清算が3.4%を占める286件となっていて、会社更生法を申請している会社も1件ありました。
倒産件数が増えてしまっている要因とは
2019年の倒産件数は、2年ぶりに増加しました。特に、飲食店は732件が倒産していて、過去最多となっています。倒産した会社の中でも目立っていたのが、粉飾決算などの不適切な会計処理をした会社です。都市部の企業の中で、特に20前後の金融機関から融資を受けて数十億円の負債を抱えている企業の倒産が相次いで起こったのも特徴的です。
それ以外では、後継者難が原因で倒産した例も過去最多の460件が発生しています。負債の総額は約488億円にもなっています。既に事業の継続を断念していた企業や、廃業を予定していた企業なども、債務超過に陥って倒産した例もあります。
事業を継続するために、スポンサー先を選定して早期のうちに再生手続きを目指すなど、事業の将来性を重視する支援のための体制が広まったことも、民事再生の申立件数の増加につながったと思われます。今後も倒産する会社は増加する可能性が高いので、民事再生手続きはさらに重要な役割を持つことになるでしょう。
民事再生の成功企業事例
実際に、民事再生に成功した事例を紹介します。民事再生で再建した企業の中でも特に有名なところといえば、老舗の自動車部品メーカーで、国産初のエアバッグも開発したA社です。2011年には、世界のエアバッグ市場のうち20%のシェアを占めていました。
しかし、実は2008年ごろからエアバッグの重要な部品に不具合が判明していて、アメリカやマレーシアではそのせいで死亡事故も起こっています。そのため、リコールが断続的に起こっていました。2014年11月までの期間で、その台数は1,700台にまで達していたのです。
それを受けて、アメリカではA社のエアバッグで判明した欠陥を不祥事として扱うことになりました。リコールや情報開示などの適切な対応をしなかったためにアメリカで被害が拡大することになった、という理由で、民事制裁金として当時のレートで約240億円になる2億ドルを科すことを発表しました。これは、担当するNHTSAが1社に対して科した制裁金としては過去最高額であり、過去最大のリコールとなっています。そして、自動車メーカーとともにエアバッグの修理を2019年末までに行うことも命じました。これにより、A社は制裁金と訴訟費用、リコール費用が巨額になる可能性があり、会社存続の危機を迎えたのです。2016年の時点で、リコールの対象となるエアバッグを搭載している車は全世界で1億台以上もあり、その修理にかかる費用は1兆円以上とされました。それにより、A社は製造業としては戦後最大となる経営破綻を迎え、2017年6月に民事再生法を申請しました。その結果、中国企業の参加であるアメリカ自動車部品会社のキー・セイフティ・システムズに全事業を譲渡しています。その後、ジョイソン・セイフティ・システムズが発足し、A社はその会社のブランド名として残ることになりました。
これ以外にも、過去に百貨店のそごうなどが民事再生法を申請しています。
まとめ
・民事再生は、会社の倒産方法のひとつ
・事業を継続したまま手続きができる
・再生に成功すれば、事業をそのまま継続できる
・経営陣も交代せずに、続投できる
・民事再生手続きには、平均で6か月かかる
・中には、1年以上かかるケースもある
・民事再生をする際は、債務額に応じた予納金を裁判所に納める必要がある
・手続きの際は、専門家に依頼するのが一般的だが、その際の報酬も債務額によって異なる
・民事再生の手続を早く終わらせるには、書類の不備がないようにすることが大切
・債権者からの同意を得やすいように、再生計画はよく考える必要がある
・資金繰りが厳しい会社は、民事再生を検討したほうがいい
・金融債権者以外が多い場合も、民事再生を検討したほうがいい
・民事再生を申し立てる場合は、その手続き中の運転資金を確保しておかなくてはいけない
・民事再生の申立件数は、増加傾向にある
クレジットでの買い物や、軽い気持ちでキャッシングを重ねるうちに借金が知らない間に増えることは、だれにでもあることです。
支払いが無理かなと感じたら、身近な法律家である司法書士にまずは、ご相談ください。
あなたの早めの相談が問題解決へのきっかけになります。
一人で思い悩まずに、司法書士といっしょに問題解決に向けてスタートしましょう。
また、司法書士は、不動産登記や商業登記、簡易裁判所で扱う事件についての代理等をしていますので、借金問題以外の法律相談もしています。
弁護士では、敷居が高いと感じている方も、気軽にご相談ください。